鬼滅の刃【ネタバレ】113話
鬼殺隊隊員の竈炭次郎は美しい女性の回想を視る。
様々な記憶と心の声が入り交じり、じっくりと噛み締める。
全ての想いを受け取った炭次郎は赤く変化した炎の刀を再び構え、
想いを新たに鬼へと立ちへ向かって行くのであった。
炭次郎渾身の必殺の舞が炸裂する。
巨大な炎が舞い、それは一瞬で三体の鬼の頸を切断してしまう。
その時、炭次郎は森の奥に四人目の鬼の頸を切り落とした玄弥の姿を目撃する。
が、振り返った玄弥の顔はもはや人間のものではなかった。
凶暴化した玄弥がいきなり炭次郎に掴みかかる。
自分にとって邪魔な炭次郎を威嚇し頸を締めつけてきたのだ。
それにもひるまず語りかける炭次郎。
炭次郎の無垢なる言葉に戸惑いを覚える玄弥だが、再生した鬼の攻撃が二人に襲いかかる。
五体目の鬼の存在を感じた炭次郎は降りかかる攻撃をかわしながら周囲に目を配り、
匂いの探知に集中する。
すると奥の藪の陰に目標とする匂いを感知する。
それこそが彼が探し求めていたもの。
とうとう炭次郎は五人目の鬼を見つけたのであった。
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1. 遺伝の記憶。想いを胸に!
「お侍様の刀は戦いの時、赤くなるのね。」「いつもは黒いのね。」
美しい女性が楽しそうに話しかけてくる。
全身着物姿で頭に布を巻き、手にいっぱいの野菜を抱えている。
この古風ないで立ちといい、言葉の端々といい、江戸時代頃の女性であろうか?
その女性が誰だか分からず一瞬戸惑う炭次郎。そしてすぐに思い至る。
これは遺伝した記憶であることを。
それと同時に、過去の記憶に出てきた耳飾りの剣士の事も思い出していた。
その剣士の刀は漆黒だったのか?
自分の刀は禰豆子の力で赤く変化したので、あの剣士とは違うが
曲がりなりにも同じようになっている。
強くなったと思ってもさらに自分より強くなっていく鬼達。
心も体もズタボロ。
一瞬。ほんの一瞬だけ弱音に近い思いがこみ上げる。
が、いつも誰かが助けてくれる。いつも誰かが紡いでくれる。
応えなければ。
自然と顔に険しい表情が浮かぶ。
今までに力を貸してくれた人、見守ってくれた人、支えてくれた人、
あらゆる人たちの強い想いが、無数の手が、そっと背中に置かれるのが感じられる。
そして、それが炭次郎を前へ前へと押し出す鋼の意志の力となる。
顔を上げろ。いつも前を見続けろ。
心に在るのはただひとつ。
鬼を倒すこと。
そして人の命を守ること。
俺はそれに応えなければ!
ザッ。
燃えたぎる炎の刀を再び構えなおす炭次郎であった。
不意に現れる炭次郎の遺伝の記憶。耳飾りの剣士。
ここで剣士の刀は漆黒であり戦闘時に赤くなる事が明かされる。
これは炭次郎そのものではないか!
果たしてこの剣士と炭次郎の関係は?
ますます謎は深まり、広がっていく。
このちょっとしたミステリー仕立ての展開も「鬼滅の刃」の読みどころのひとつ。
いろんなジャンルを内包する懐が深い作品だと改めて認識させられる。
そして今回の注目ポイントは炭次郎の弱音!
強くなったと思っても…。
生身の体は傷を負い…。 と、
ほんの一瞬だけ、ほんのわずかだけ、炭次郎の弱音?らしきものが見え隠れする!
これは非常に珍しい!
普段はネガティブなことは言わない炭次郎だけに、彼もたまには本音出すんだァ!と
少しほっとなること請け合い。
作者も今回ばかりは、よっぽど炭次郎に言わせてあげたかったのだろう。
そんな気がする心の言葉である。
その炭次郎の背をみんなの「絆の力」が前へと押し出す。
今までのみんなの手が前へ前へと押し出す。
この一気に畳みかける流れに読者も全員が背中を押されたはず!
ホント、力と勇気が湧いてくる。
またひとつ名シーンが生まれる瞬間に出会えたことに感謝です。
2.赫刀、炸裂!
炭次郎を前に余裕の表情で煽りながら飛び上がり襲いかかる空喜。
が、その横で積怒は目を見張っていた。
うっすら遠くに剣士が視える。
積怒は彼等の主である鬼舞辻無惨の記憶を垣間見ていたのである。
その昔、無惨を追い詰め、頸を斬りかけた剣士の刀を。
その記憶ははっきり確信へと変わり始める。
空から襲い来る空喜。
それに対し炎の刀を振り上げ上段に身構える炭次郎。
その後ろに剣士の幻が視える。
炭次郎の額の痣も剣士のそれとだぶり、
その立ち姿は完全に昔の剣士と一致していた。
まさしく分身の如く重なっていたのだ!
ヒノカミ神楽 日暈の龍 頭舞い
一面が凄まじく絶大な炎の渦に飲み込まれる。
それはまるで獰猛な炎の龍が暴れ、のたうつかの如く激しく鬼に纏わりつく。
刹那、その圧倒的な斬撃は鬼の頸を悉く斬り裂いていた。
空喜、可楽、積怒の頸はアッという間に胴体から切り離され飛ばされていく!
振り向きながら手応えを感じる炭次郎。
前に妓夫太郎の頸を斬った一撃。
あの最強の一撃。
ずっと模索し続けてきた。
なぜ威力が出せたのか
その時の感覚、呼吸、力の入れ方。
額を含めた体中の熱く燃え上がる様な変化を。
考え続け、探し続け、もがき続け…
そして、すべて理解した。
分かったのだ。
もうできる。
全てに手応えを実感し、さらに強い確信となり、心にどっしり定着する。
あと一体だ。一度に四体斬らないとこの鬼は倒せない。
あと一体、 あと一体は何処だ。
あと一体は…。
そのとき炭次郎の目はある光景をとらえる…。
3. 玄弥の変貌と困惑。
玄弥!
炭次郎が目にしたのは横の森の中で屹立している玄弥の後ろ姿であった。
玄弥の前には、哀絶が頭の無い状態で槍に胸を貫かれ大木に串刺しになっている。
一方、左手は長い髪の毛が銃とともにしっかりと握り締められ、
その下には哀絶の顔の上半分がぶらんと垂れ下がっていた。
玄弥が四体目の鬼、哀絶の頸を斬り落としていたのだ!
四体同時に頸を斬れていた事実に顔を輝かせ、玄弥に言葉を発しかけようとした炭次郎。
が、ことはそう簡単にすむ訳ではなかった。
何故なら、振り向いた玄弥の顔は…。
顔中の血管が醜く浮かび上がり、
見開かれた真っ黒な両目は白い眼玉に狂気の光を宿し、
きつく噛み締められた口元には鋭い牙が生え、あまりにも邪なヨダレが垂れ流されている。
それはもうすでに玄弥の顔、いや、人間のそれではなくなっていた。
玄弥か? あまりの姿に驚き、言葉を失くす炭次郎。
この玄弥の豹変ぶりは何だ! 炭次郎の思った通りの言葉しか出てこない。
それは鬼だ! 人間が鬼化した顔である。
これが瀕死の重傷を負わされても闘い続けられる玄弥の秘密なのか?
でもどうして? どうやって?
またしても謎が生み出される。
謎また謎。
そして読者は広い迷路の中を地図もなくひたすら歩かされる気分を味わう。
早く何とかしようと、もがけばもがくほど出られなくなっていく。
そうやって、ますます作者の思うつぼにはまっていくのである。
「ガアアアアァ! 再生できぬ!」
あまりの激痛に悶絶する可楽。
「落ち着け!」
間髪入れず切り離された積怒の頸が叫ぶ。
その冷静な頸は、速度は遅いが再生は出来ていると即座に認識したのだ。
炭次郎は急ぎ考え続ける。
攻撃自体は効いているが四体同時に頸を斬っても倒せない。
頸が急所じゃないことがあるのか?
だがそれよりもずっと気になっていたことがあった。
それは以前、空喜に空中へ連れ去られる直前に一瞬だけ感じた微かな違和感。
ほんの一瞬だけ感じたわずかな匂い。
その正体に、今、漸くいき当たったのだ。
あれは五体目の匂いだ!
五体目を見つけなければ…五体目の頸がきっと…
と、いきなり頸を鷲掴みにされる。
「図に乗るなよ。」
凶暴化した玄弥が鬼の形相で頸に掴みかかり威嚇してきたのだ。
その指先にますます力が込められ、炭次郎の頸を締め上げる。
「柱はおれだ!」
「分かった!協力するからみんなで頑張ろう!」すかさず大きく答える炭次郎。
「………」
あまりにも素直。曇りがなく、つぶらに輝くそのマナコには、暴走している玄弥を唖然とさせる威力があった。
恐るべき炭次郎の純粋無垢のパワー!
ほとんど人間ではなくなっている暴走玄弥をいとも簡単に鎮静化してしまうとは!
ぎゅうぎゅうと頸を絞められ、息も止まりそうなぐらい苦しい状況なのに…。
普通ならば逆切れして掴み合いのケンカになったり、やめてくれと懇願したり、じたばたと抵抗するだけだったりのリアクションをとるのだが、炭次郎はひと味もふた味も違うのである。
相手の目を真っ直ぐに見つめ、相手の言い分を素直に受け入れ、
お互いのために頑張ろうと潔く言い放つ。
自分ありきではなく相手が第一。
相対する相手があってこその自分だと生まれながらに無意識に自覚しているのである。
毎度の事ながらいやはや恐れ入りました。
4. 五人目の鬼!
ドオン!
突然、辺り一帯に雷が降り注ぐ。復活した積怒が怒りの雷を落とし始めたのだ。
散会する二人。
積怒の攻撃を掻い潜りながらも、素早く周りを集中して探る。
獲物を追い詰める猟犬のように微かな匂いを追い求める。
先程、屋敷を倒壊させるために放った団扇の風で温泉の硫黄の匂いは消し飛んでいる。
と…奥の藪の影の中、頭を抱えてブツブツ呟く鬼の姿があった。
鬼は恐怖のあまり両目から涙し、ガタガタと身体の芯から震えていた。
いた! いた! 見つけた!
遂に炭次郎は肆の上弦の鬼、最後の一体、五人目の鬼を視界に捉えたのであった。
五人目の鬼!?
まさか、まさか!
作者はこんな隠し玉を用意していたとは!
一人の鬼から喜怒哀楽の四人の鬼に分離しただけでも驚いたのに、
さらにもう一体の…しかも急所を持っている本体らしき最後の一体が隠れていたとは!
もはや驚きを通り越して、開いた口が塞がらない。
しかし、ここまで来るのに……長かったぁ~!
空喜に連れ去られた時の、かなり前から張られていた伏線もここで生かされるとは!
これも脱帽ものである。
炭次郎自身も満身創痍で、ギリギリ極限まで追い込まれている。
ここまで痛い目に遭わないと鬼を倒す糸口が見えてこないのである。
むご過ぎる。
毎回言っているように作者はドSだ! と、今回も言っておこう。
鬼滅の刃114話考察
今回も清水のような起承転結が、美しく、きめ細かく流れていく。
遺伝の記憶から始まる「起」のパート、
それを受け、大技を発動させる「承」の部。
突然の玄弥の出現と豹変。鬼が倒せない「転」へ。 ここで物語は転ぶ、転ぶ!
「結」は最後の五人目の鬼の発見。
思わずため息が出る見事な構成である。
読者はこの清水のあまりの冷たさに驚き、
時には痛みを感じ、手を引っ込めてじたばたし、
時には水面に映る様々な想いに涙する。
謎の剣士の秘密と炭次郎との関係はどうなるのか?
玄弥はこれからどうなっていくのか?
五人目の鬼を倒し、肆の上弦の鬼を打ち負かすことが本当にできるのか?
そして今回は出番がなかったが
時透無一郎と甘露寺蜜璃は無事に鬼を倒すことができるのか?
我々読者の喉はもう乾ききっている!
はやく飲みたい!もっと飲みたい!
欲望は強まるばかり。留まるところを知らない。
が、次週だ! 来週になれば喉を潤す事ができる!
さらなる美味しい清水を求め、
あらたな刺激を求めて、
果てしない砂漠の中を次なるでっかいオアシスに向けて
希望の旅を続けて行こうではないか!
かくして、冒険は止めどなく続く!
どこまでも。